Waiting in the River Styx.

境界のRINNE 『一緒にいること』 真宮桜

あやえりん

あやえりん

久しぶりにワンライやってみました。ひさしぶりすぎて迷走中。




気づいたら、彼はいつも隣にいた。同じ視界を共有していた。
ひとと一緒にいることが、これほどまでに心安らぐ時間になるとは、数年前の私では考えられないことだった。

元々顔に出るタイプではなかった。顔に出さないようにしていた、と言うべきか。そのせいで、中学時代についたあだ名はクールガール。何考えてるかわかんないよね、と言われることもしばしばあった。まあ確かにそうなのだ。うっかり霊が見えているなどということを勘づかせてはいけない。そんなのは絵空事だと考える人が大多数だった。誰もが誰かとつるみたがり、自分をさらけ出しているのなんて少数、笑顔を貼りつけながら自分以外を恐れている。見えざるものが見えていると知られたら、どうなるかは火を見るよりも明らかだ。
真宮桜もそんな1人だった。同じ学区の中学で、クラスメイトの顔ぶれも大幅に変わるというわけではないが、小学校とは明らかに空気が違った。幼いころは霊にも話しかけていたが、無視するようになったのはこの頃からだった。いじめがあったわけでもない。ただ、ここではマジョリティとしてふるまうことが求められているのはすぐにわかった。悟られぬよう、勘づかれぬよう、桜はあまり感情を表に出さなくなった。
両親も最初は心配した。いじめられているのではないか、学校で何かあったのではないか。しかし、毎日、学校どうだったと聞くたびに返ってくる、「今日もいつも通りだった。ママ、晩ごはん何?」の言葉をいつしか信用していた。口数が減ったのも同じく心配の対象ではあったが、中学生だから仕方ないと思うことにしていた。
人と一緒にいても、そこには薄くて見えない壁があった。自分に見えるものが人には見えていない。たぶん、誰にも理解などしてもらえない。程よくつかず離れずの関係を保つことが一番楽だと知ってからは、親しい友達と言うのは作らなくなった。

「お前、俺が見えるのか」
奇妙な少年だった。赤い髪に、同じく赤い瞳。高校にいるというのに、中学のジャージを着ている。白地に、炎と赤い輪が描かれた羽織。実に奇妙だった。
まさか彼と一緒にいるのが、日常になろうとは。

六道りんねは自分と似たような人だった。お金のことと食に関すること以外、感情は顔に出ない。校内で誰かと仲良くしたり、人とつるむところを見たことがない。たまに誰かといると思ったら、それはほとんどが依頼人だ。クールな雰囲気で、その容姿も相まって人を寄せ付けない。中学時代の自分を見ているようだった。
そんな彼は、自分にはよく話しかけてきた。最初は興味本位でついていくだけだったが、今まで邪魔だと思っていた霊について知ることができるのは、単純に楽しかった。
何より、自分を偽らずにすんだ。ミホやリカとも仲はいいと思うし、一緒に遊びに行く仲ではあるけれど、見ないフリをするのは疲れてきていた。同じ視界を共有し、同じものを見ることができる。見えてしまった素振りをしても、おかしいと思われない。
翼が転校してきて、霊が見えるのは3人になった。そこに、死神の鳳やれんげ、架印、沫悟、杏珠、契約黒猫も現れた。彼を介して、人間ではないけれど見える友人は確実に増え、学校の友人といるより彼らといるのが自然になった。そこが居場所になったと思っていたのに。


「りんね。私、りんねのことが好き。私と付き合って」
放課後、いつものように廃クラブ棟にあるりんねの部屋のドアを開けようとした桜は、ひゅっと息を止めた。中からは鳳の声。ドアノブに手をかけたまま、固まる。早くいなくならないとなのに、脚がその場に凍り付いたように動かない。今すぐ、帰らないと。これは私が聞いていいことじゃない。
聞くのが、怖い。りんねがどう答えるかわからない。数秒か、数分か。たったそれだけの時間がいやに長く感じられた。
「すまない。鳳、お前とは付き合えない」
「なんで⁉なんでダメなの!……桜が好きだからって言うんじゃないでしょうね」
外にまで聞こえるような大声で鳳が言った。
「そうだからだ。俺は、真宮桜が好きだから、鳳とは付き合えない」
「じゃあ仮に桜がいなかったら、そしたら私と付き合ってくれた?」
「鳳。俺にとってお前は、あくまでも同業者だ。そうである以上、俺はお前を恋愛対象として見られない」
「そう。……わかったわ」
鳳はばたんとドアを開けた。
「桜……あんた、いたの」
「真宮桜……」
部屋の奥のりんねと目が合った。今はそれどころではない。
「ごめん。立ち聞きみたいな感じになっちゃって」
「聞いてたんならわかるでしょ。私はもう、ここには来ない。じゃあね、桜」
鳳は霊道を開いて立ち去ろうとした。このままではいけない気がした。これを逃したら、私は二度と鳳に会えなくなる。
「待って、鳳。ちょっとだけ、話さない」
桜は半ば強引に、鳳を自分の家まで連れて帰ることにした。

「なんでなのよ……私の方が、りんねにいっぱい好きって言ったのに。なんであんたなのよ」
桜の部屋で、鳳は桜を恨めし気に見た。化粧はとうに崩れ、目の周りは赤く腫れている。その原因の一端を自分が担っている自覚はあった。紅茶と共に桜が持ってきた、真宮母(39)お手製のクッキーを次々と口に入れながら、鳳はそういった。
「鳳。あのね、鳳は私の初めての友達なんだ。霊が見える女の子の友達って、初めてだったから。それに私、鳳がうらやましかった」
「なんでよ」
「あんなに素直に、私は自分を出せない。どれだけ霊が見えても、私は戦うことすらできない。ただ見てるだけ」
桜から見た鳳は、自由奔放で危なっかしい一方、実に素直だった。好きなものにも嫌いなものにも、ひたすらに素直で、まっすぐ突っ走っていく。それで失敗しても、落ち込むことはあれど決して投げ出さない。なんだかんだ言いながら、あきらめない。
「お願い。ここに来ないなんて言わないで。私は鳳がいなくなるのは、嫌だ」
振り回されることが多い一方、まっすぐな彼女は眩しかった。そんな彼女がりんねと一緒にいるのはどこかもやもやするが、それでもいなくなってほしくなかった。
「いやなのよ!あんたがりんねと話してるのを見るのは、つらいの!それだったらもう、見ない方がましよ。堕魔死神に関しては、お姉ちゃんが関わっている以上私も協力するけれど、もう見たくない。……桜は悪くないのにね。私に、それだけの魅力がなかっただけなのに。いつも足手まといなのはわかってるけど、りんねと一緒にいたくて、ここに来てた」
鳳はぽろぽろと涙をこぼした。桜は隣に座ると、鳳にティッシュを差し出し、背をさすった。
「私は鳳の素直なところ、好きだよ。お願い。これからも一緒にいてよ」
返事はなかった。ひとしきり泣いた後、冷めた紅茶をぐいっと飲み干して、残り1枚のクッキーを口に放り込んだ。
「あんたに好きって言われても嬉しくないんですけど。まあいいわ、私はりんねよりもいい人を見つけてやる。桜はさ、りんねのことが好き?」
言葉に詰まった。正直、わからなかった。穏やかなゆるゆるとした時間は好きだった。彼が、自分の弁当を実においしそうに食べてくれるのも好きだった。自分の恋愛感情には疎い自覚がある。
これから彼と、そして鳳といる限り、このわずか12文字の問いは、何度も自分に突き付けられるだろう。


人と一緒にいることは、簡単なようですごく難しい。隣にいようとしても相手が離れていくこともある。互いに嫌いじゃないのに、いつの間にか距離ができることもある。
それでも今は、同じ世界を見られる死神の彼らとの時間が、少しでも長く続くことを願う。



今回は、桜と鳳で書いてみました。

一緒にいることって本当に難しい。月日がたてば、同じ組織に属してたから一緒にいただけで、卒業やらなんやらで離れてしまうことはいくらだってある。
この時間が続けばいいのに。
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