Waiting in the River Styx.

ゴシック姫とロリィタ王子 序:ロリィタ王子の休日

あやえりん

あやえりん

向きを変えれば 今日も追い風
考えようじゃ 晴れ模様


「トビウオ」パスピエ より


前回の序章「黒を纏うゴシック姫」の、もうひとりのお話です。
次から本編になります。




「おい雅也!部活行くぞ」
「わかった!日直済ませてからだから、先行っててくれ。今日は掃除があるから遅くなる」
あんまり遅れんなよ、と同じバドミントン部のクラスメイトは彼に言い、教室を出ていった。
放課後になり、めいめいが帰ったり、部活に行ったりする時間だった。だがその前に、日直には隔週金曜日、他クラス日直との合同清掃があった。4組は少し離れた7組と合同である。
調宮高校1年4組、福本雅也。彼は運の悪いことに日直だった。早く部活行かねえと先輩に怒られる、と思いながら、合同清掃区域の教材準備室に急いだ。まだ1年生の彼は、先輩より早く来てネットを立てておかないといけないのだ。部員がそこそこいるとはいえ、後からは行きづらい。もう1人の日直は廊下掃除に励む。
4組と7組担当の第2教材準備室にはすでに人がいた。すらりとして、自分より背の高い女。青のインナーカラーを入れた髪の毛。ブレザースタイルの制服を着崩した彼女は学年の有名人で、別名は『氷の女王』。
「黒曜さんなのか」
「ん?今日の清掃の人?4組の日直だよね」
後ろを向いて作業をしていた彼女は振り向いた。
「白井雅也だ。とっとと終わらせようぜ」
運が悪いのは日直に当たっただけでは終わらないらしい。氷の女王と一緒か、と雅也は心の中でため息をつく。
悪いひとではないのだ。人をいじめることもなく、悪口を言うのも聞いたことがない。ただ、あまり話したこともなく、同じ空間にいるのは気まずい。自分とは違い、そこにいるだけで圧倒的な存在感を放つ。一見話しかけにくく、切れ長の瞳や彼女独特のクールな雰囲気と、人とむやみにつるまない姿勢も相まって、ついた別名は氷の女王。もちろん本人に対してそう呼ぶ命知らずはいない。
「だね。私も早く部活に行きたいし。床掃いてちょっとはたきをかければ終わるでしょ。白井くんは?この後部活?」
「ああ。バド部だから、早くいかないと怒られる」
「そっか。厳しいもんね、顧問の先生」
顧問は5組担任である。担当教科が数学のため、彼女も知っていた。
あれ。思ったより会話が続いてる。そして彼女はそこまで冷たくない。
小柄な雅也にと対照的に長身の彼女が高いところの掃除をした。床を掃くのは雅也だ。それからも少しずつ話しながら、掃除を終わらせた雅也はダッシュで部活に向かった。ネットは既に友人が立ててくれている。先輩の姿もあまり多くない。
「悪りぃ、遅くなった」
「日直か?あれお前そういえば、今日日直なら氷の女王と一緒だっただろ?」
マジでお疲れ、と、彼女と同じ7組の友人に言われた。
「いや、黒曜さん、思ったよりも氷の女王じゃないかもしれない」
はあ?と言われた直後、集合をかけられ、雅也も7組の彼も、『氷の女王』のことはすっかり忘れたのだった。


「おつかれ。なー、どっかで飯食って行かね?」
「悪りぃ、今日俺帰るわ」
バド部の練習は午後6時ごろまである。それから家に帰るともう7時になり、課題などをしているとあっという間に1日は終わってしまう。そんな中での楽しみは、練習が休みになる土日だった。友人とは時々ファミレスに寄ったりもするが、それを断って雅也は急いで家に帰った。明日寝坊するわけにはいかないのだ。
 
バド部のエースで、身長は165㎝と小柄だが、部内イチの持久力の持ち主であり、体力勝負ではだれにも負けない。運動部ということもあり、スクールカーストはそこそこの位置にいる。なぜかよく告白はされるが、自分のシュミを言ったら確実に引かれることがわかっているからすべて断っている。

彼の趣味は、ロリィタを着ることだった。
 
土曜日。目を覚まして顔を洗い、化粧水と乳液で保湿をする。朝食を終えると歯を磨き、そこから部屋に雅也はこもって、今日のコーディネイトを考案する。ウィッグはまだ一つしかないので決まりだとしても、他はどうしようか。フリルの多いロリィタを着たい気分だからそうするとして、問題は小物だ。髪飾りは白系の華やかなものの方がロリィタとも釣り合いが取れる。本体が豪華な分、アクセサリィは控えめにしたいが、この前買ったロザリオ風のアンティークなネックレスは絶対に使いたい。そうするとロリィタをもっとクラシカルにしたほうがいいだろうか。いや、やはり主役はロリィタだ。
タイツはレース風のものにすることにした。白にすると明るすぎるから、生成のような色のものにする。靴はブーツにしたいが、持っていないから姉のものを借りよう。一旦部屋を出た雅也は、隣の姉の部屋の扉をノックした。どーぞ、と言われたのでドアを開ける。
「姉ちゃん、あのレースアップのブーツ貸して」
「いいけど……あ、じゃあ明日さ、そのネックレス使わせて。友達とお茶会で、ドレスコーデはクラシカルなもので、だから」
姉の美玲もロリィタが好きで、雅也の趣味は姉に影響されているところが多い。彼女は大学生で、アルバイトなどもしているため雅也より収入があり、彼にも時々貸してくれたりする。時々お茶会でロリィタの人たちと集まっているらしく、それをうらやましく思うが、ロリィタ、それも男子となると人口は一気に減少し、今のところはひとりで行動するのが常だ。
美玲は雅也が手に持ったままのネックレスを指差して言った。
「ああ。明日渡す。サンキュ」
ブーツはこれで解決した。パニエとドロワーズは手持ちのものを使えばいい。
化粧はどうする?ベースはいつも通り、紫のコントロールカラーを乗せた後にリキッドファンデーションを薄く伸ばし、フェイスパウダーをブラシで乗せる。アイブロウは平行眉で、ウィッグに合わせてアイブロウマスカラで茶色に染めた。
肝心要のアイメイクは、目が縦幅に大きく見えるようにブラウンのシャドウをグラデーションで乗せた。垂れ目に見えるようにアイラインを引き、下まぶたにもハイライトカラーを入れた。
チークやリップも、ロリィタに合うようにピンク寄りで、でも秋冬向けにこっくりとしたカラーをチョイスした。
全身鏡の前でコーデと化粧を確認すると、雅也は家を出た。
 
最近は組み合わせがうまくなったのと、肌がもともと白いのと、化粧で顔を多少は買えられるため、話さなければ男子だとはばれないようになった。やはり白いほうがロリィタに映える。中学時代やっていた陸上から転向したのはこのためでもあった。ハンドメイド関係のこともやってみたいが、周囲が女子ばかりでなんとなく入れず、さらにバド部の練習が厳しかったというのもあって、未だできていない。
顔も性格もクールとは言われているが、それは普段校内では眼鏡をかけているからと、ただ単に口数が少ないからで、眼鏡を外しコンタクトレンズをはめて化粧をすると、女子のような顔になる。肩幅も女子よりはあるが普通の男子よりはなく、どうにか女子向けの服も入る。小柄だったのが幸いした。
アパレルブランドや布地が売っている店は、陽乃町というこの地域一の繁華街に集まっている。電車で4駅ほどのところだ。雅也のルーティンは、セレクトショップやらブランドの直営店、手芸用品店をいくつか巡るというものだった。
ワイヤレスのイヤホンをして大好きな音楽を聴きながら歩くことさえ、雅也にとっては楽しみの一つだった。電車で4駅の陽乃町には、様々な店が集まっている。最近はモードファッションのブランドや新たなロリィタ関連のセレクトショップも開店していた。
最初は、大本命の『アリス・イン・クロック』に行く。大半のロリィタアイテムはここでそろうため、彼行きつけの店だ。シンプルなものから豪華なものまでラインナップは幅広く、細かい装飾に品があるため支持は厚い。店員も女装だと知っており、最初に普段着で現れたときには追い出されかけたが、美玲と共に何度か来たら嫌悪することもなくなった。今では歓迎され、むしろよくスナップを撮られるほどだ。店員の勧めでインスタグラムに写真を投稿し始めたところ、ブランド力もあり多くの人がフォローしてくれ、それなりに楽しいと思っている。美玲には、
「あんた、女の子以上にロリ似合うからいいよね。うらやましい限りだわ」
と言われてしまっている。小柄で時には馬鹿にされることもあったが、ロリィタを着始めてからは気にならなくなった。むしろ、この身長は武器だ。好きな服を着れてなおかつ、部活の時には小回りが利く。厚底靴を履いても背が高くなりすぎない。バドミントンも、スマッシュの威力では劣ってしまうが、その分身軽に動ける。


「みやびさん、こんにちは。今日は何をお探しですか?」
そうして歩いていると店についた。入ると真っ先に話しかけてくれるのは、馴染みの店員だ。『みやび』とは雅也のハンドルネームで、この店ではそう呼ばれている。
「今年こそ秋冬向けのコートを買おうと思っていて。今までは姉のを借りてたので、さすがに自分で買わないと怒られます」
たかが高校生の小遣いは少ない。ある程度バイトはしててもたかが知れている。両親は雅也の趣味に理解はあるが、好きな服に関しては自分の所持金で買うことになっていた。普通の服は買ってくれるし、プレゼントでアクセサリィをくれることはあるのだが、趣味は自分でが原則だ。これは美玲も同様である。今までは姉から借りることもできていたが、そろそろクラシカルなものがほしくなっていた。
「それはさすがに買わないとですね。みやびさんに合いそうなものがいくつか入荷していたはずなので、ご覧になりますか?」
店の奥には、最近入荷したという新作のコートが並んでいた。オンラインショップで下見はしてきたが、やはり実物を見るのとは違う。
「んーそうですね。みやびさんはそうは見えないけど肩幅あるじゃないですか。そうなると、小さいのは厳しいですよね」
ロリィタのコートはその服のことも合って大きめに作られているが、女性向けというのもあって全体的にサイズは小さい。大き目のもあるにはあるが、着る人が少ないためあまりかわいいデザインというのは多くない。そして運動部の雅也にとって、合わせられるものはさらに少なくなる。
「これ、珍しくサイズ展開豊富なんですよ。羽織ってみますか?」
店員が取りだしたロングコートは前で締めるタイプのものだった。紺地に大き目の白ボタンが映えている。甘めのものなら締め色になるだろうし、ゴシック・ロリィタやクラシカルなものならきれい目に合わせられる。雅也は羽織ってみたものの、ボタンを締めようとすると肩がきつかった。
「ちょっときついです。ケープみたいなのならいけますかね」
「すごくお似合いだったのに……前開けられる方もいますが、そうするとボタンがあまり見えないんですよね。ケープみたいなものなら大丈夫だと思いますが、下が寒いかも……」
ボタンもこのコートのポイントだったため、見えないというのはもったいない。
「下はもう仕方がないです。うーん……もう少し迷ってみます。ありがとうございます」
雅也はいったん店を出た。別の店を見てから迷ってみるのもいいと思ったのだ。それにあの店は気に入っているが、やはりお値段が張る。学生の内は、ロリィタに合う似たようなものの方がいいのかもしれない。シンプルなデザインの物を買って、ボタンをクラシカルなものに付け替えたりとか、レースを縫い付けるのもアリだと思う。姉のを見せてもらって、それを参考にしようか。次に行く店に参考になる商品があるかもしれない。雅也はつらつらと考えていた。


次に行こうと思ったのは、最近開店したロリィタブランド、『ジー・ファクトリィ』だった。ロリィタもそうだが、ゴス系のアイテムが多く、ゴシック・ロリィタに合わせられそうなアクセサリィも売っているのだ。ケープ類ならこちらの方が品ぞろえも多い。『アリス・イン・クロック』から5分ほどで店についた。店内は先ほどの店とは対照的に黒や紫をメインカラーにしており、暗いのににぎやかに見える。最近開店したとはいえ、雅也はすでに何度か行っており、ここの店員とも顔なじみだった。
「みやびさん、いらっしゃいませ。今日は何を?」
「なのさん。今日はケープ系のコートを見に来ました」
「ケープならいくつかありますよ。ロリィタに合わせやすいのもです。お値段もそこまでしませんし、一度ご試着なさったらどうですか?」
いろいろと店員に案内されながら商品を見ていると、ひとりの女性が入ってきた。黒のMA-1ジャケットの背中には蛇がいる。同じく黒のダメージスキニーを履いた彼女の姿は、一見きつく、ロリィタブランドの店には意外性があるように見えるが、向かった先がアクセサリィのコーナーだったので納得した。少し辛口のアクセサリィも置いてあるのだ。
そして、既視感があった。真っ先に目に入る、あの青のきれいなインナーカラー。昨日学校で見た覚えがある。そうだ。教材準備室だ。厚底を履いていることを差し引いたとしても、女性にしては高い身長。小柄とはいえ、165cmある自分が見上げるほどなのだ。そして、一重で切れ長の瞳。
……まさか、『氷の女王』、黒曜さんか?
だがメイクは濃いし、つけているアクセサリィもごつい。シルバーの大き目の五芒星のネックレスをメインに、2連のネックレスも付けている。手元で存在感を示すのはアーマー・リングだ。彼女の印象とは違う。
まさか、そんなわけはない。雅也は必死に否定した。ここに学校の人間が来るのか?女装しているとバレたら、一巻の終わりだ。
そんなことを考えていたら、ごゆっくりご覧くださいねと店員が去っていた後ろに、彼女が立っていたことにも気づけなかった。


白井くん?と後ろから女の声がした。考え事をしていたところにいきなり声をかけられたため、思わず振り返ってしまった。それから、自分がロリィタ姿だったことを思い出す。しかし今更逃げ出すことはできない。
「……黒曜さん?」
そこにいたのは、クラスの、いや調宮高校1年の氷の女王だった。予想が当たってしまった。自分より長身の彼女は、驚いたように、真っ黒な服を着てそこに立っていた。
(これは、終わったな……)
高校生活史上、最大のピンチが雅也に迫っていた。














以下、かなりどうでもいい話(読み飛ばしても何の問題もない)

今まで上げていた『ダイアリィ』を非公開にしたわけ。
ほぼ私の自己満で書いていたのですが、かなり個人的なことも上げていました。大学生活のこと、友達や先輩のこと、私が今どう思っているかの心の整理目的でもあります。
理由は、身内にこのブログが見つかった可能性があるからです。先日私のツイッターアカウント(趣味垢)が親バレしまして。ツイフィールにここのリンクも載せていたので、このブログの存在がバレるのも時間の問題かと思い、ダイアリィのみいったん閉鎖することにしました。そのためツイッターアカウントは鍵をかけています。
親バレしたとわかったわけは、私がツイッターでしか言っていないことを母親が知っていたからです。それについて匂わせのようなメールが届き、ネットが得意な妹(何なら私よりも)に本当にそうか確認をとってみたところ、おそらくばれているだろうという結論に至りました。妹曰く、母親はYouTubeもロクにみられないらしいです。なのに何でツイッターができるんだと不思議がっていました。
娘のSNS監視し始めるとか、怖いんですが、そんなことを言っても通じるわけがないので諦めます。私からしたらそれは、自分の部屋の引き出しに入っている日記帳を勝手に読まれた感覚です。そこまで私は親に見られたくないです。もともと過保護で過干渉な親でしたが、まさかSNSまで見ているとは思いませんでした。
電話番号も登録せず、あやえりんという名前も本名から全く連想できないものです。メルアドも親は絶対に知りえないものなので、どこから私のアカウントが漏れたのかわからず、とても怖いと思います。私が実家で、スマホでツイッター見てた時に後ろで見てしまったとかなのかもしれませんが。
『ダイアリィ』の更新は、今後はあまりしないと思います。更新するとしても、小説の裏話や、私の心情がほぼ一切含まれないもの、その他やってみたかった(おそらく小説とは一切関係ない)企画のみになると思うので、更新頻度は落ちますがどうぞよろしくお願いします。
関連記事
スポンサーサイト



Comments 0

There are no comments yet.